バレンタイン前日


 
「……悪い子にはお仕置きなの……」
「!?」
 真っ暗で何も見えなかった空間に突如として、白を基調とした服を着た女の子が現れた。
 その子を中心に、徐々にな魔力が集束しているのを感じ取れた。
「(ちょっと待て。何でそんな事……!)」
 俺はその子に声をかけようとしたが、声が出ない。
 そんな俺を余所に、女の子の足元には巨大な魔法陣が展開され、魔力は今にも爆発しそうなほど集束していた。
「(あ、悪魔……)」
「……悪魔でいいよ」
「(!?)」
「悪魔らしいやり方で話を聞いてもらうから……」
「(まっ!!)」
StarLight Breaker.
「(うわぁぁぁ……!!)」
………………
…………
……
「あぁぁ……!? はぁ……はぁ……」
【Good morning, my master. How are you?(マスター、おはようございます)】
「あ、あぁ……イリア、おはよう」
 ……やけにリアリティのある夢だったな。
 ♪〜〜♪〜♪〜
 枕元に置いてあった携帯電話が軽快なメロディを奏で始めた。
 [着信:高町なのは]
「……」
 先ほどまで見ていた夢がフラッシュバックしている。
 それが、携帯電話のボタンを1つ押すという単純明快な動作すら躊躇わせる。
【Master, you’re wanted on the phone.(電話鳴ってますよ?)】
 イリアに促され、意を決して通話ボタンを押した。
「……もしもし」
『……何ですぐに電話に出ないのかな?』
 電話越しなのに喉元にレイジングハートを突きつけられて、脅迫されているような殺気を感じるのはなぜだろう……
『ねぇ、雄真くん? 私の質問に答えてくれないかな?』
「い、今まで寝てたんだよ」
 俺は、自身の潔白を全力で訴えた。
 情けない男だとか少しでも思った奴、今すぐ代わってやるからここに来い。
 しかし、俺の懸命な訴えも空しく……
『……嘘つきの悪い子には“お仕置”なの』
「あ、あくま……」
 あまりの恐怖に決して発してはいけないタブーの単語を思わず呟いてしまった。
 それ以前に嘘じゃないし……
『……悪魔でいいよ』
「っ!?」
『悪魔らしいやり方で話を聞かせてもらうから……』
「い、いりあ〜……何とか言ってやってくれ……」
【Master……(マスター……)】
 本気で泣きだしかねない俺の姿に(すでに半泣き状態だが)、イリアは心底呆れたような答えた。
 そうは言っても、俺の命が掛かってるんだ。背に腹は代えられない。
『……イリアがそう言うのなら信じてあげるよ』
「……」
 イリアのおかげで何とか一命を取り留める事が出来た。
 それにしても、俺ってそんなに信用ないのか……?
『雄真くんの事を信用して無いわけじゃないよ。ただ、雄真くんは時々だけど“嘘吐きさん”になるから、こうしてわたしが教育してあげてるんだよ』
 フォローされてるのか貶されてるのかよく分からなくなってきた……
『そんな事はどうでもいいの』
「いいのかよ……」
『雄真くん、今から予定とかあるかな?』
「いや、今日は特に何も無いかな」
 学校は休日で休みだし、管理局の方に顔を出す用事もない。
 まぁ、クロノに休めって言われて休んでるわけだから仕事も入ることはないだろう。
『もしよかったら、今からわたしに付き合ってくれないかな?』
「それは構わないけど、どこかに行くのか?」
『実は、お父さんにお使いを頼まれちゃって――』
 どうやら、士郎さんに“翠屋”で使う雑貨品の買い出しを頼まれたらしい。
 ただ、急ぎではないから、ついでに俺と一緒にショッピングでもと思って声をかけたらしい。
『それじゃあ、12時に駅前で待ってるから』
「あぁ」
『……寝ちゃダメだからね』
「寝るわけないだろ……」
 “寝る”イコール“永眠”なんて事態は願い下げだ……
『にゃはは♪ それじゃまた後でね』
 現在時刻11時。家から駅前まで20〜30分だから、今から準備すれば十分間に合う。
「よし。とりあえず着替えるか」




 俺はなのはとの待ち合わせ時間の5分前に駅前に到着した。
「あいつの事だから20分前くらいには着いてそうだな……」
 今まで何度もなのはとは待ち合わせたことはあるが、なのはが遅れてきた事は殆どない。
 それどころか、俺がどんなに早く出たつもりでもなのはより先に待ち合わせ場所に着いたためしがない。
 俺は、もうすでにこの近辺で俺を待っているであろう人物の姿を探した。
「え〜と、なのはは……っと?」
 すぐになのはの姿を見つける事が出来たが、当のなのはが置かれている状況はあまり穏やかとは言える状況ではなかった。
「いいだろ。俺たちと一緒に楽しいことしようぜ」
「人を待ってるんで止めてください」
 ある意味予想どおりって言えば予想通りの状況だな……
 男2人組がベンチに腰かけているなのはを挟むような形で声をかけていた。
 年は……クロノと同じくらいか。朝っぱらからナンパとはご苦労な事で。
 まぁ、幼馴染の贔屓目を差し引いたとしても、なのはの容姿は下手なモデルよりもよっぽど良い。
 ミッドチルダじゃ雑誌とかでも取り上げられるほどの有名人だからな。
【Master, why don’t you stop them?(止めなくていいんですか?)】
「ん? あぁそろそろ止めないと――」
「君のようなカワイイ子を待たせるような奴は放っておいて、俺たちと来た方が楽しいにきまってるって。どうせロクな奴じゃないんだろ」
 その男の言葉でなのはの雰囲気が一変した。
 さっきまで嫌そうにはしてたが、何とかやんわりと断ろうとしている雰囲気は出ていたのだが、今はどうだろう……ちょっとしたきっかけで所謂“全力全開”が解き放たれそうだ。
「それはマズイよなぁ、色々な意味で……」
 管理外世界での魔法使用規則が云々とか言うわけではない。それに、なのはなら周囲の人に気付かれずに魔法を使う事くらいは出来るだろう。
 問題なのはその魔法を受けた男達は確実に病院送り。しかも入院生活のオマケ付きという豪華仕様。
 男達を庇う義理も無いが、このまま想像通りに事が運んでも目覚めが悪い……
 それに、目の前でなのはが知らない男に声を掛けられてるのを見てるのも面白くないしな。
「なのは」
「あ、雄真くん♪」
「俺の連れに何か用ですか?」
「ちっ……待ってるって男を待ってたのかよ……」
「おい、もう行こうぜ」
「あぁ」
 男たちはそそくさと人ごみの中に消えていった。
「それにしても、あんな所に1人でいたら『声を掛けてください』って言ってるようなものだろ」
「その言い方だと、わたしが悪いって言われてるみたいだよ〜。それに、あそこはカップルの待ち合わせ場所としても有名だもん」
「別に俺たちは恋人でも何でもないだろ……それで、どこに買い物するんだ?」
「う〜ん……買い物の前にどこかでお昼にしない? 雄真くんも起きたばかりだから何も食べてないよね?」
「あぁ」
 起きた時から腹の虫が鳴いていたのだが、さすがに飯を食ってる時間は無かった。
「前に雑誌で見たんだけど、最近おいしいイタリア料理のお店が出来たらしいんだけど行ってみない?」
「俺は腹がいっぱいになるんだったらどこでもいいよ」




 昼飯を済ませた後、俺達は商店街に大型ショッピングモールと色々な店を梯子した。
「これで買うものはもういいのか?」
「そうだね、お父さんに頼まれたものは揃ったかな。雄真くん、付き合ってくれてありがと」
「気にするなって。それよりも、これを持って翠屋まで戻るんだろ?」
「うん、そうだけど?」
「さすがにこれだけの荷物を1人で持って帰るのは大変だろ。だから、俺も翠屋まで付いて行くことになった」
「えぇ〜、それは流石に悪いよぉ〜。これくらいの荷物だったらわたしだけでも持って帰れるし、それに今日は夕方から雪が降るって言ってたし……」
「悪くない。こんな荷物をなのは1人に持って帰らせたって言うのが士郎さんや恭也さん辺りに知られたら俺が殺される」
 あの人達はなのはの事となると容赦ないからなぁ……
「そ、そんな事ないと思うけど……」
「まぁ、俺もしばらくこっちに帰ってきてなかったから、たまに帰った時くらいに挨拶しとかないとな。それに、いざとなったら、な」
 そう言って俺はイリアを摘みあげた。
「もう、ダメだよ雄真くん。そんな事に魔法使っちゃ。でも……お願いしちゃおうかな♪」
「あぁ」


 なのはの家がある海鳴市は俺の住んでる瑞穂坂と隣接する町だ。
 電車やバスと言った交通も整ってるし歩いて行き来できる距離でもある。だからこそ、こうしてなのはが瑞穂坂まで足を伸ばしている訳だが。
「う〜ん、でもこうして雄真くんと2人きっりで歩くのもずいぶん久しぶりな気がするよ」
「買い物してる時からそればっかりだな。そんなに荷物持ちしてほしいなら、いつでも声かければいいだろ」
「分かってないなぁ、雄真くんは〜。女の子には色々と事情があるんだよ?」
「なんだよ事情って」
「にゃはは、それはヒミツ♪」
「はぁ……別に教えて貰えるなんて思ってなかったけどな」
「でも半分は女の子の事情だけど、もう半分は……」
「なのは?」
「……雄真くんにあんまり負担をかけたくないから、かな。ただでさえ執務官のお仕事は忙しいのに……また雄真くんに迷惑かけちゃうから」
「……はぁ。なのは、ちょっと目瞑ってろ」
「え?」
「いいから」
「う、うん……」
 なのはが目を瞑ったのを確認すると、俺は両手をなのはの両頬に伸ばした。
 そして……
「!!? いひゃい、いひゃいよ、ふゅうまひゅん!?」
「ば〜か」
「あぁー! ばぁふぁっへいっひゃぁ〜!」
「ぷっ……あははは!」
「むぅ〜……もう雄真くんなんて知らないんだからっ!」
「くくくっ……悪かったって、俺が悪かった」
「ふ〜んだっ」
「なのは」
「……(プイッ)」
「……なのはが俺の負担になるわけないだろ? なのはは“また”って言ってるけどな。あれは別になのはのせいじゃない」
「でもっ……!」
「でも、今2人でこうして歩いていられるんだからそれでいいだろ、な?」
「……雄真くんがそう言うなら」
「はい、暗い話はこれでおしまい。それよりも、いくら急ぎじゃないって言ってもあまり遅くなると士郎さん達が心配するからな」
「ふふ、雄真くんがお父さんとお兄ちゃんに襲われちゃう?」
「あぁ、あの2人に襲われたら全力で魔法を使っても逃げ切れるか怪しいな」
 それ以前に魔法すら使わせてもらえない可能性も高いか……
 あ〜……本気で命の危険を感じてきたぞ……
「それはわたしとしても困っちゃうかな。それじゃ急いで帰ろう♪」
 そう言ってなのはは小走りで駆けだした。




 なのはの家に向かう途中、公園を通り抜けようとしていた俺達の耳に女の子の悲鳴に近い声が聞こえてきた。
『やめてぇ〜!』
『ほら、けんじ。パ〜ス』
『オーライオ〜ライ』
『返して! 返してよ〜!』
『やなこった〜』
「雄真くん、あれ……」
「あぁ……」
 6・7歳くらいの女の子が同い年くらいの男の子3人と何かをしている。
 仲良く4人で遊んでいるなら微笑ましい光景だが、目の前の光景はとてもそうとは言えない。
「女の子をからかいたい年頃なんだろうけど……」
「あれはちょっと酷すぎだよね」
「そうだな……」
 …………
 ……
「……止めてくる」
「え、ちょっと雄真くん?」


「おい、そこまでだ」
「「「!?」」」
 男の子達は3人が3人とも予想外だったであろう第三者の介入に驚いていた。
「女の子に意地悪なんて、男として最低だぞ」
「なんだよ、おまえ」
 口の利き方が悪い奴だな。精神的教育の前に肉体的教育が必要か?
【(I don’t think so…… (流石にそこまでは……))】
「意地悪い男は嫌われるぞ」
「うるせぇよ、バーカ」
「(なぁ、イリア。やっぱり肉体的教育も必要だと思うんだが?)」
【(It is childish to get angry……(大人げないですよ、マスター……))】
「さっさとあっち行けよな。たかし、いくぞ!」
「オッケ〜。オーライオーラ……うわっ!?」
 盛大に転んだ男の子。そして運の悪い事に男の子が転んだ先にちょうど投げられた箱が落ちていた。
「「「「あっ……」」」」
「お、おれは悪くないからな!」
「そ、そうだよ。お、おい、もう行こうぜ」
 男の子たちは捨て台詞を残して逃げ去ってしまった。
 ちっ、男の風上にも置けない奴らだな……今度会ったらきっちりと教育してやる。
 目下のところ、最優先すべき事は目の前の女の子の事だ。
 女の子は大粒の涙を浮かべながら、潰れ汚れてしまった箱をとても大事そうに抱きしめている。
 新しいものを買えばいい、なんて無粋な事は言わない。
 確かに店に行けば、同じようなチョコはたくさん売ってるかも知れない。
 でも、この女の子がチョコを渡したいと思っている相手の事を一生懸命考えて選んだチョコは、女の子が大事そうに抱きしめているそのチョコだけだ。
 俺は女の子と同じ目線になる為にしゃがみ込んで、そっと話しかけた。
「少しだけそれをお兄ちゃんに貸してもらえるかな?」
「……」
 俺の声は届いてるはずなのに、女の子は変わらず涙を受かべながら大事そうに潰れてしまった箱を抱きしめている。
 それから2・3度声を掛けたが、女の子から主だった反応は返ってこなかった。
 どうしようかと悩んでいると、なのはから念話が飛んできた。
「(ねぇ、雄真くん。もしかしてこっちの魔法使うつもり?)」
「(あぁ。母さんからこう言う時に使える魔法は教えてもらってるし。まぁこっちの術式は使い慣れてないから心配されるのも分かるけど、イリアならこっちの術式でも魔力制御補助は出来るしな)」
【(Of course. I can do it.(勿論、大丈夫です))】
「(雄真くんの魔法が失敗するとは思ってないよ)」
 相変わらず俺に関しては妙な買い被りをしてくれる。
「(それにしても困ったな……流石にこのままじゃ手が出せない)」
「(う〜ん……ちょっと待ってて)」
「ねぇ、これは誰か大切な人に渡すつもりだったの?」
「……(コクン)」
 動きは小さかったがそれでも、しっかりと頷いてくれた。
「そっか……あ、わたしのお名前を教えてなかったよね。わたしはなのは、高町なのはだよ。あなたのお名前は?」
「……姫来」
「姫来ちゃん、今からこのお兄ちゃん――雄真お兄ちゃんって言うんだけど、このお兄ちゃんがすごいおまじない掛けてくれるから」
「おまじない……?」
「そう、おまじない。だから、少しだけその箱貸してもらえないかな?」
「……うん」
 女の子はおずおずと抱え込んでいた箱を差し出してくれた。
「ありがとう、すぐ終わるからちょっと待っててね」
 なのはは女の子の頭を優しく撫でながら、受け取った箱を俺に渡した。
「雄真くん、お願い」
「あぁ(イリア、不可視フィールドを展開してくれ。ランクは……C程度でいいから)」
 不可視フィールドは文字通りフィールド内の状況を外部から認識視認を不可能にする魔法。
 フィールドタイプの結界魔法ほど強力では無いので、ちょっと魔力が強い魔法使いなら結界内の事を認識することは出来る。
 まぁ、ちょっとした気休めだな。
【(Yes, master.(分かりました))】
 フィールドが展開されたのを確認すると、俺は1つ大きく息を吐き精神を集中させた。
「エル・アムダルト・リ・エルス……」
 詠唱を開始するのと同時に、  地球の魔法はミッド式やベルカ式とは構成の仕方が大きく異なる点がある。
 ミッド式やベルカ式は基本的にデバイスの補助を元に呪文を紡いでいく。大規模な魔法でなければデバイスが全ての呪文を構成してくれるので、術者は発動キーを唱えるだけで魔法を発動することが出来る。
 しかし、地球の魔法はマジックワンド(ミッド・ベルカ式で言うデバイスに当たる)が呪文詠唱のを肩代わりをすることが出来ないので、術者が1から呪文を構成していく必要がある。
 前者は、デバイスの能力によっては相当部分を補助してもらえるので誰でもとは言えないが魔導師になると言う面では敷居が低い。しかし、デバイスに頼りがちになると言う面もある。
 一方、後者は魔法の起動・構成・発動とすべてが術者に委ねられるので前者に比べ敷居が高い。しかし、デバイスに頼らない分、魔法の可能性と言う面ではこちらの方が大きいかも知れない。
「カルティエ・ディ・アムンマルサス……」
 最後のキーを唱え終わると、淡い光に包まれていた箱が一瞬だけ強く輝いた。
 光がおさまった時、俺の手には潰れてグシャグシャになっていた箱の面影はなく、新品そのものに戻っていた。
「(イリア、中身はちゃんと元に戻ってるな?)」
【(No problem.(問題ありません))】
 ふぅ……とりあえず、成功かな?
「うわぁ〜……すごい、すごい! お兄ちゃん、魔法使いだったんだね!」
 俺は優しく微笑むと、姫来ちゃんの口元にそっと人差し指をあてた。
「今日の事は3人だけの秘密な?」
「どうして?」
「う〜ん、そうだな……誰かにしゃべっちゃうと魔法の効果が切れちゃうから、かな。魔法が消えてまた汚れちゃったら嫌だろ?」
「うん……」
『姫来〜!』
 遠くの方から姫来ちゃんの事を呼ぶ声が聞こえてきた。
 声のする方――公園の入り口付近で姫来ちゃんの母親だろうか、1人の女性が大きく手を振って呼んでいた。
「あの人はお母さん?」
「うん。姫来を迎えに来てくれたの」
「そっか。それじゃあ、これでバイバイだな」
「……あのね、お兄ちゃん」
「ん?」
「これ、あげる」
「え?」  姫来ちゃんは直したばかりのチョコを俺に差し出してきた。
「でも、これは好きな人にあげるんだろ?」
「ううん、もういいの……今は、お兄ちゃんに一番あげたいって思ったの」
 嬉しいには変わりないんだが、はたして貰ってしまっていいんだろうか……
「いらないの……?」
「あ〜、いや……うん、ありがとな」
「うん♪」
「さぁ、お母さんが待ってるからそろそろ行きな」
「お兄ちゃん、おねんちゃんじゃあね!!」
「ふぅ……さて、俺達も――」 「あ、あの!」
 振りかえると俺達と同い年くらいの女の子が立っていた。
「私は神坂春姫です。少しお伺いしたい事があるんですが……」
「聞きたい事? っと、その前にこっちも自己紹介しとかないとな。俺は小日向雄真、でこっちは……」
「高町なのはです」
 自己紹介している間に、俺は神坂さんの姿をさっと観察するとある一点に目が行った。
「(マジックワンドか……って事はさっきの魔法を感じ取られたか)」
「(この子、魔法使いだね)」
 なのはも気付いたのだろう。念話の声も普段より若干の硬さがある。
「それで、聞きたい事って?」
「さっき魔法を使われましたよね?」
 やっぱりその事か……
 マジックワンドも持たずに外で魔法を使ってるやつなんて滅多にいないしな。
「何でマジックワンドも持ってない俺が魔法を使えるのかって事だろ?」
「あ、いえ。その事もあるんですけど、私の聞きたい事はもう1つあって……」
「もう1つ?」
「あなたの術式が私……いえ、先生の術式と全く同じなんです」
 !!?
 俺の術式は母さんから教わっているもの。
 その術式と同じって事は、この子が母さんの所に弟子入りしたっていう子か……
 選りによってそんな子に見られるなんて運がないな。
「う〜ん……今はあまり時間がないからこの話はまた後日って事でいいかな? 君の言う“先生”に俺の名前を聞けば明日にでも話は出来るだろうし」
「……と言う事は先生の事えおご存じなんですね?」
「あぁ」
「分かりました。急に引きとめちゃってごめんなさい」
「いや、気にしなくていいよ。それじゃ俺達もう行くから」
「はい。それじゃあまた後日」




「小日向雄真くん、か……」
 何で術式が一緒かって理由は分からなかったけど、小日向くんの言葉を信じるなら明日にはその理由が分かる。
 とりあえず、帰ったら先生に聞いてみないとね。
「それにしてもマジックワンドも持たずにあれだけの魔法を……」
 小日向くんが使ってたのは物質修復の魔法。この魔法自体は初級から中級程度の難易度だけど、箱の中の見えない物質まで修復しようと思ったらそう簡単な話じゃない。
【制御は春姫と同等かそれ以上ですね】
「ソプラノもそう思う? 最低でもClassB……ううん、ClassA以上は……」
 私の通う瑞穂坂学園の魔法科ですらClassB以上を取得している生徒なんてほとんどいない。ClassAなんて指で数えられるほどしか……
【春姫、考えるのもいいですけどそろそろ戻らないと先生に怒られるのでは?】
「え?」
 そ、そうだった! 私、先生におつかいを頼まれた途中だったんだ。
 急いで時計を確認すると、約束の時間の15分前。
「大変っ、急いで帰らないと!」
【急いでください。でないと、私まで怒られるんですから】
「……その時は一緒に怒られてね」
【はぁ……とにかく早く帰りましょう】


...To be continued


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