ロストロギア“レリック”
“ロストロギア”とは過去に滅んだ超高度文明の技術や魔法の総称。
2年前に起きた、ミッドの臨海空港火災もロストロギアの一種である“レリック”が原因で起きたものだと言う見方で固まっている。
そのレリックの確認された地点で度々目撃されている謎の機械兵器“ガジェットドローン”。
誰がこのようなモノを造ったのかすら分かっていない。
ただ、ロストロギアの確認される場所にガジェットが出現する割合が高く、そのロストロギアが消失していることから、何らかの目的を持ってロストロギアを回収している者がいる可能性が高いと言う事だけは言える。
そもそも質量兵器を製造・保有は管理局によって禁止され、法的にも規制がある。
そしてロストロギアは言うまでもなく管理局が最も神経を尖らせているもので、ミッド空港火災を遥かに上回る災害、それこそ“次元災害”を引き起こす可能性すら秘めている。
ロストロギアの無断収集は第一級次元犯罪だ。
そして俺は、そのロストロギア“レリック”が第132観測指定世界で確認されたとの報告を受けてそこに向かう艦船の中にいる。
その艦の割り当てられた一室で、今回対象となっているロストロギアの確認をしている。
「ロストロギア“レリック”か……」
俺の眼前の複数のモニターには、ロストロギア“レリック”について分かりえている情報がすべて表示されている。レリックについてはいくつかはすでに管理局によって保管管理されていて、ある程度の調査も済んでいるので比較的情報がハッキリしている。
「超高エネルギー結晶体で、次元震を引き起こす可能性は殆どないが、使用方法によっては大規模災害を引き起こしかねない……か」
情報には、外部からの魔力圧力により爆発を起こす恐れがあると記録されている。
「次元震を引き起こす可能性が無い分、ジュエルシードよりも危険度は低く設定されているが……これほどのエネルギー結晶体が次元犯罪者の手に渡ったら……ちょっと厄介な事になりそうだな」
レリックの総数は分かっていないが、1つ1つに刻印ナンバーがふられていて管理局で保管管理されてレリックの1つに刻印ナンバー『LXIII』のレリックがある。
もし、『I』から通し番号が付いてるとしたら少なくとも63個のレリックがあることになる。
管理局が確保したものと爆発で消滅したと思われるものを合わせても2桁にも満たない。
単純に考えてまだ6倍以上のレリックがこの次元世界のどこかに眠っている事になる。
それにまだ公にはなっていないが、はやてがレリック対策で新部隊設立に向けて色々と動き回っている。
この前会った時に少しその話をしたら、どうやらなのはやフェイトも引き抜くつもりらしい。
ヴォルケンリッターの面々もはやてに付いていくらしいから、オーバーSランク魔導師が3人にニアSランク魔導師が2人と言う充実を通り越して異常なまでの戦力を持つ部隊になる。
普通、こんな部隊を設立しようとしても上層部の許可が下りるはずもないのだが、“来るべき危機”に備え本局も危機感を抱いているようだ。
その話は別の機会にするとして、その“来るべき危機”を回避またはその時を出来るだけ良い状況で迎える為にもこの任務をしくじるわけにはいかない。
【Master.】
「イリア?」
デスクの上に置かれたペンダントが一瞬光りを発すると、そこから身長が30cmほどの女の子の姿が現れた。まぁ、正確には女の子じゃなくてデバイスなんだが……
「力を抜いてください」
イリアは“武器”としての変形点以外にヒューマノイドモード――人型形態になることが出来る。
人型を維持するには若干魔力を消費するが、大した問題にはならない。まぁ、イリアが自ら人型になる事はあまりないけどな。
「変に力んでも状況は何も変わりませんよ」
イリアはスーッと俺の右肩まで飛んできて、ちょこんと腰をかけた。
人型になった時は、それ以外のモードでの機械的な様子はなくなり、リインみたいに可愛い妹分とでも言うべきだろうか、そんな存在になる。
「分かってる。ちょっと気合いを入れてただけだよ」
イリアの頭を撫でてやると、くすぐったそうに目を細めた。
銀色の髪をショートポニーで纏め、肌は透き通るように白い。一見するとか弱そうなイメージがあるが、デバイスとしての能力は超一級。
何度もイリアが俺の相棒でよかったと思っている。
「さて、そろそろ第132観測指定世界に着く頃だろうし、ブリッジで艦長に話にでも行くか」
イリアはスタンバイモードに戻り、俺達は艦橋へと向かった。
次元航行艦・艦橋
「艦長、あと数分で転送可能ポイントに到着します」
「分かった。武装局員は転送の準備を、あと執務官をここに呼んで……くれなくてもいい」
「?」
「何で呼んで頂けないんですか“ハラオウン艦長”?」
「……気配を消して背後から近づくのは止めろ。あとその呼び方もだ、雄真」
「その消した気配に気付くのもどうかと思うけどな、クロノ」
俺は気配を消してクロノの背後に近付いたと言うのに、クロノは振り向きもせずに俺がいる事に気づいて見せた。
クロノ・ハラオウン
23歳にして時空管理局提督、新造艦XV級艦船「クラウディア」の艦長を務めている。
去年、双子が生まれ何気に2児の父だったりする。
……うん、子供達は父親でなく母親のエイミィさんに似て欲しいもんだ。
「……何か失礼な事を考えていなかったか?」
「いいや、別に」
危ない危ない。相変わらず鋭い勘をしてる。
しばらく前線から離れているとはいえ執務官も務めた第一級魔導師だ。
艦長をやっているから魔導師として前線に出る事はほとんどないが、その実力は折り紙つき。
もし、今クロノと1対1の模擬戦をやったら負けるつもりもないが、確実に勝てるとも言えないな。
クロノとは10年来の付き合いで、昔は時々魔法を教えてもらったり訓練に付き合ったりしてもらった。
5歳と言う年齢差はあっても親友と呼べる間柄だ。
「……そんな話は置いておこう。まずは現状の確認からだな」
「あぁ」
「間もなく転送可能ポイントに到達する。ポイントに到達したら武装局員と共に現地に降りてもらい、ロストロギアの確保・回収して貰う」
「ガジェットの出現状況は?」
「今のところ広範囲にT型が15体にU型が30体の計45体が確認されている」
45体か……結構多いな。
「現地の観測隊にも武装隊員がいるそうだが、君たちみたいに対AMF戦闘訓練は積んでいない」
「あぁ」
AMF(Anti Magilink-Field:アンチマジリンクフィールド)
簡単に説明すると、魔力を無効化する空間の事。ここで重要なのは“魔法”を無効化するのではなく“魔力”を無効化することにある。
AMFの強さや密度にもよるが射撃魔法や砲撃魔法と言ったものだけでなく、自身に掛ける強化系魔法や飛行魔法、念話といった魔力を下に行われる行為全てを無効化できる。
ガジェット単体ではそこまで強力なAMFを展開できるわけではないが、並みの魔力攻撃ならば簡単に無力化できるAMFを自身を中心として展開している。
その為、ある程度訓練を積んだ魔導師でないと対応が難しい。
「艦長。転送可能ポイントに到達しました」
「分かった。……それじゃあ雄真、頼んだぞ」
「了解」
気持ちを一気に戦闘モードへと切り替え、転送ポートへと向かった。
これから俺が行うべき事は、持てる手段を駆使して最善の手で任務を“完遂”すること。
転送ポートには15名ほどの武装局員が出撃に準備を整えていた。
俺が来た事に気づいた局員の1人が敬礼したのにならい、他の局員も一斉に敬礼をした。
俺もそんな彼らに敬礼で返し、声をかけた。
「俺達の任務はロストロギア“レリック”の確保。現場となっている旧市街地にはガジェットドローンが多数展開中。α、β班の2班に分けて協力してガジェットを撃破しつつレリックの確保」
「執務官はどうなさるのですか?」
「俺は、ガジェットU型を撃破して制空権を確保する。他に質問は?」
「ありません」
「それじゃあ俺が先行して降りた後、α・β班の順で転送。後は作戦通りに、いいな?」
「了解しました」
『小日向執務官、間もなく転送開始します』
「あぁ、分かった。イリア、モード3セットアップ」
【All right. ModeV――Shooting mode set up. (モード3――シューティングモードセットアップします)】
狙ったかのようなタイミングでオペレーターから通信が入った。
その瞬間、俺の足元には魔法陣が開かれる。
バリアジャケットを展開し、いつ転送されてもいいように準備を整える。
そこで、俺は一つ言い忘れていた事を思い出した。
「あぁ1つ言い忘れたけど」
「?」
「全員が大きなケガをせずに戻ってくること、それが第一目標だ」
「「「了解!」」」
少なくとも俺の係る任務で誰かが傷つくなんて、絶対に許さない。
任務を共にすることになった仲間を傷つけさせたりはしない。それが、5年前に過ちを犯した俺の出来る唯一の償いのようなものだから……
第132観測指定世界に降り立った俺は、目の前にいた4体のガジェットU型の迎撃に入った。
【Crystal Dust.】
俺の周囲に8つの魔力弾が出現、8つ全てを俺から離れていくように飛行をしているガジェットへと射出する。
その魔力反応を感じ取ったのか、ガジェットは若干の回避行動を取るがその程度の回避行動じゃ俺の誘導弾から逃げ切る事なんて出来ない。
1体に対して2発ずつ。高密度魔力弾が叩き込まれ、ガジェットは為す術もなく爆散した。
「ふぅ、リミッターが掛かってると出力が出ないな」
俺は部隊毎の保有魔力ランク総計をクリアするために2ランクダウンの能力限定――出力リミッターが掛けられている。
俺の元のランクがSSだから、今はAAAランク相当の出力しか出せない。
「まぁ、どっちにしてもイリアがいなきゃその程度の力しか使えないけどな……イリア、調子はどうだ?」
【Not so bad. (問題無いです)】
いつも通りでいてくれること、俺にとってこれほど心強い事はない。
唯一無二の相棒の言葉に思わず笑みがこぼれる。
『小日向執務官。こちらから随時ガジェットU型の位置座標を転送します』
「あぁ、そうして貰えると助かる」
ブリーフィングだとU型は編隊を組みながら相当広範囲に分散していた。
個々を撃破するのに手間取ることは無いだろうが、追い掛けるのに時間を取られそうだな。
『ガジェットU型は5編隊に分かれて飛行中です』
オペレーターの声と共に、空域図が送られてきた。
ガジェットは、俺を中心にほぼ同心円状で分散している。
「ちっ……手間を掛けさせやがって……」
一ヶ所にかたまっていたなら、広域攻撃で一気にケリをつけられるものを……
「時間をかけるのも面倒だ。一気に行くぞ」
【All right. Swift move.】
「これで、最後だ!」
【Starlight Lance.】
イリアの先端から放たれた十数発の直射型魔力弾がガジェット編隊を貫いた。
【Destroy the enemy of typeII. (ガジェットU型全機撃破しました)】
「クラウディア、地上の様子は?」
『敵性反応は残り5です。殲滅までは時間の問題かと』
『雄真、お前は“レリック”の確保に向かってくれ』
「了解」
送られてきた座標、“レリック”の反応があるのは山の中。ここからだと高速飛行魔法を使って5分くらいか……
「イリア、行くぞ」
【OK, my mast――】
『小日向執務官待ってください!』
そばにいるイリアの声を遮るほどの大きさの声でオペレーターの待ったがかかった。
『“レリック”の反応があった地点を中心に新たなガジェット反応多数確認。その数30……いえ40を超えます!』
「何?」
今までクラウディアのレーダーに引っ掛からず隠れていたのか?
クラウディアは次元航行部隊の最新鋭艦だ。そのレーダーを誤魔化せるほどの機能はガジェットには無いはず……
「(だとしたら、誰かが幻術系魔法か結界魔法を展開して隠していた?)」
いや、その可能性も低いか……結界魔法なら結界自体がクラウディアのレーダーに掛かる可能性の方が高い。幻術魔法自体はマイナーでその性能は良く分からないが、40ものガジェットを隠し通すだけの幻術使いがそう都合よくいるはず――
『これは……艦長!』
『どうした?』
『正体不明の魔導師を2名確認。そのうちの一人が使用しているのは……召喚魔法です!』
『ガジェットはこいつが召喚していたのか……』
「クロノ、こっちにも映像を回してくれ」
クラウディアから送られてきた映像には、小柄な女性魔導師と中老の男性魔導師。
どうやら召喚魔法を使っているのは女の方みたいだ。
暫くして、女の方は召喚魔法を使うのをやめた。魔力を相当使ったのか、肩で息をしている。
「クロノ、どうする?」
そう聞いておきながら俺の中での答えは決まっている。
レリック反応のあった場所にいる事、その場所でガジェットを召喚している事……十中八九間違いなくレリックを狙っているだろう。
この2人がレリックを盗掘しているという証拠はないが、法律で禁止されている質量兵器の使用。
身柄を拘束するには充分すぎる理由だ。
まぁ、黙って従ってくれるはずもないだろうから戦闘になるのは避けられないだろう。
『相手の実力が分からない以上、無理に戦闘を行うわけには……』
「その間に逃げられたらどうする?」
『だがな、君一人を危険にさらすような行為を出来るわけないだろ?』
どうやら俺の事を心配してくれているらしい。
「とは言っても、このまま黙って見過ごすわけにはいかないだろ? まぁ、1人は召喚魔法で疲れ切ってるし、武装隊の魔導師が到着するまでの時間稼ぎは出来るだろ」
俺の言葉にクロノは思案顔になる。
『……まぁ君が僕の言う事を聞くような奴じゃない事は十分承知しているが』
「それは心外だな」
『無理だけはするなよ。ロストロギアを奪われないように足止めさえしてくれればそれでいい』
「分かってる」
実戦での対魔導師戦は久しぶりだ。
「イリア、サポート頼むな」
【Of course. (もちろんです)】
イリアの頼もしい返事と共に、体がまばゆい光に包まれる。
その光が弾ける頃には、俺の姿はイリアとユニゾンしたときの姿へと変化する。
ここで、この能力について大まかに説明しておくと、イリアとのユニゾンは誰にでも出来るわけではない。
便宜上、ユニゾンと呼んでいるが正確には“コンサート・コントロール(同調和制御)”と言って、この稀少技能を持つ人間だけが可能になる能力であり、俺の持つ稀少技能でもある。
普通の融合型デバイスは、術者と融合することで魔力管制補助や魔力量強化などの効果を得る事が出来る。
イリアとの同調和制御は魔力補助とかの能力は融合型デバイスと大差ないが、1つだけ大きな違いがある。
俺達は互いに持っている意思――記憶と言う情報を共有することで、俺は自分で知らない魔法を行使することが出来るし、イリアはデバイスが自動発動することは困難な大規模魔法をさえ自動発動することが出来る。
とは言っても前者は、もともと自分の知識には無い魔法を行使することになる。
細かい魔力制御はイリアがやってくれるので魔法が暴走することはまず無いが、使い慣れた魔法に比べどうしても無駄な魔力消費が出てしまう。
後者は、術者である俺に負担が掛かりすぎるらしく、イリアが実行したことはない。
この2つの力を使わなくても、魔力補助などをしてもらえるだけで十分なサポートになってるから問題ないんだけどな。
【Master, we encounter with the enemies in a few minutes. (マスター、もう少しで敵を射程内に捉えます)】
「クラウディア、敵の数は?」
『I型が20にII型が25です』
「45体も召喚したのか……」
無機物召喚とはいえ、ガジェットは人よりも一・二回り大きな機械だ。
そんなモノを同時に45体も召喚出来る魔導師なんて管理局にもいるかどうか……
召喚魔導師の方の実力がこれなら、中老の魔導師の方もそれなりの実力があると思った方がいいだろう。
「魔導師を相手にしている時にガジェットに邪魔されるのは面倒だな」
幸いにして今回はガジェットII型はほぼ一か所に固まっている。
「イリア、砲撃魔法で一気に撃ち抜くぞ」
【All right. Radiation mode setup. (了解。レディエイションモードセットアップ)】
中距離戦モードから遠距離戦モードへと切り替わる。
それと同時に足元とイリアの先端に巨大なミッド式魔法陣を展開。俺の周囲にある魔力が集束してくる。なのはの代名詞ともいえるスターライトブレイカーを俺なりにアレンジを加えた魔法。
スターライトブレイカーの弱点の1つである距離減衰を抑え射程距離を伸ばした。
……まぁ、正面から撃ち合ったら確実に撃ち負けるだろうけどな。
その分威力はスターライトブレイカーには及ばない。
それでも、ガジェット程度の相手なら十二分の効果が期待できるはずだ。
【It’s possible to fire. Load cartridge. (発射準備完了。ロードカートリッジ)】
付け根の排出機構から1発カートリッジが排出されるのと同時に、俺の内側から魔力が一気に膨れ上がる。
≪貫け絶対零度の氷槍……≫
【Absolute Zero.】
振り構えたイリアの先端から、集束された魔力が奔流となって吐き出された。
砲撃魔法の先端がガジェット群の最後尾に到達してから全体を飲み込むまでわずか1・2秒。
触れた先から高密度魔力に押しつぶされ爆発していき、砲撃が収まった時にはガジェット群の姿は跡形もなく消え去っていた。
【All targets are erased. (全ガジェット反応消失しました)】
これで相手の魔導師も何らかの行動に移るはずだ。
中老の魔導師……あの男がどれほどの魔導師かは分からないが実質1対1とはいえ油断は出来ない。
視線の先で一瞬何かに光が反射したような輝きを見た。
次の瞬間――
【Master! Huge magic reaction perception, it’s from the front. (マスター! 前方より巨大な魔力反応です!)】
「この魔力は……!」
俺は右手を突き出し前面にラウンドシールドを最大出力で展開する。
正面からシールドに直撃した砲撃魔法の威力は、俺がさっき放ったアブソリュート・ゼロの比では無かった。
「っ……!?(この威力……なのはの砲撃魔法と同等かそれ以上……!?)」
シールドに少しずつ罅が入っていく。
「(このままじゃ耐えきれない……)イリア、カートリッジロード!!」
カートリッジを1発消費して上昇した魔力分で無理やりシールドの強度を引き上げた。
それが功を奏して、シールドが破られる前に敵の砲撃は止んだ。
「はぁはぁ……イリア、今の魔法は……」
【Yes, it had magic of over S rank. (Sランク以上の魔力は持っていました)】
「……遠距離戦しかできない砲撃魔導師なら近づけば何とかなるけど」
仮に近づけたとして、相手が接近戦の心得もあった場合能力限定の掛かった状態でオーバーSランク魔導師にどこまで対抗できる……
魔導師ランク……特にAAAランク以上は同ランク内での差も激しい。
仮に1ランクしか違わなくても、致命的な事になりかねない。
俺はそこまで考えてクロノに通信を入れた。
『雄真、大丈夫か?』
「あぁ大丈夫……と言いたいところだけど、ちょっと厄介そうな相手だな」
『……なら、他の武装隊員が到着するまで待て、今そっちに向かっている』
「待った。隊全体の指揮権を持ってるクロノの判断を無視するつもりもないが、現場指揮最高責任者の俺の話を聞いてから判断してくれ」
『……言ってみろ』
クロノの表情は苦虫を噛み潰したかのように顰められていた。
多分、俺の言おうとしてる事がある程度予想出来てるんだろう。
「武装隊員の撤退の許可と、俺の能力リミッターを完全解除してくれ。キーツ統括官から限定解除権限を預かってるだろ?」
『断る……と言ったら?』
「任務の成否どころか武装隊員の安全も確保できない」
『……君が隊員の安全を確保したい気持ちも分かるが、僕にとったら君もその隊員の中の一部なんだがな』
「だけど、目の前でロストロギアが奪われそうなのに、黙って見過ごすわけにもいかないだろ?」
本局のお偉いさん方はレリックに関して相当神経質になっていると思う。
それは単にレリックの危険性を危惧しているからだけでは無い。
問題なのは、確保したレリックと消滅を確認したレリックの総和よりもレリックの反応をキャッチした回数の方が倍近く多いという所だ。
つまり、反応のあったレリックのうち約半数が確保されたわけでもなければ消滅したわけでもないのにその姿を消したと言う事になる。レリックに自ら反応を消したり姿を隠すような機能があるのなら話は別だが、レリックは良くも悪くもただのエネルギー結晶体だ。
自らどうこうできるはずはない。と言う事は、残りは管理局が確保する前に他の人間がレリックを持ち去ったと考えるのが一番妥当だ。
しかも途中からは次元航行部隊をはじめとするエリート部隊を任務に当ててるのにも関わらずこの結果だ。
上層部の連中はレリックの危険性と、任務成功率の低迷により自分たちの面子と2重の意味で胸糞が悪い事件だろう。
まぁ、俺にとって上層部の面子なんて知ったこっちゃないが。
『なら僕も下に降りる。それまで待っ――』
「おいおい、艦長にそんなに簡単に動かれたら誰が指揮をとるんだよ」
クロノは変な所で甘いところがある。……こんな事、本人に言ったらデュランダルで氷付けにされそうだが……
「一応これでも空戦SS+ランクの魔導師だぞ。1対1で早々遅れを取るような俺じゃない事くらいクロノだって知ってるだろ」
『……時々、何で君を部下にしたのか疑問になるよ』
「こんな上司思いな部下は他にいないだろ?」
『仕方ないが君の案を受け入れよう。ただし、限定解除は60分だ。それ以上掛かるようなら“レリック”は放棄する。いいな?』
「サンキュ」
『礼を言われるような事はしてない』
相変わらず愛想が悪いな。人から感謝されたんだからもう少し愛想ってものを……
まぁ俺が言えたことでもないか。
『……雄真、お前に万が一の事があったら、あの3人に何を言われるかわからん』
「……」
クロノは言いながら能力限定解除の準備を始めた。
『……小日向雄真執務官、能力限定解除60分』
コンソールのスイッチを押したのを確認すると同時に、今まで抑えられていた魔力が解放されたのを感じ取れた。
『雄真、絶対に墜ちるなよ』
「……当たり前だ」
俺は2度と墜ちたりしない。少なくとも俺の事を信じてくれている人たちの前では……
そして、俺の事を信じてくれる人たち、その日常を守るのが俺の役目だ。
それを奪おうとするやつがいるなら容赦はしない。
クロノが俺の願いを聞いてくれたおかげで、仲間の魔導師を気にしながら戦闘をする必要もない。
すべでの思考を如何にして敵を排除するかと言う事に回せる。
そこに、一切の感情はいらない――
「……イリア、始めようか」
【All right.(了解)】
...To be continued
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