「孝平、受け取ってくれるかな……」
完成したばかりの手作りチョコを眺めながら、孝平の事を思い浮かべる。
明日はバレンタイン。私にとって“初めて”のバレンタインだ。
生まれて十数年は館で生活していたし、吸血鬼の私が人間と恋に陥る事はあり得ないと思っていた。
何より、修智館学園を卒業すると同時に訪れる“確定した別れ”があるのだから、そんな事をしても無意味だと思っていたのかも知れない。
でも、今は違う。
孝平のおかげで私の人生は180度違う方向へと向かった。
「まさか、普通の人間になれるなんて夢にも思っていなかったわ……」
独り言のように呟きならがらも、その喜びを改めてかみしめる。
厳密には“普通の”人間ではないのかも知れないけれど、少なくとも、私は“吸血鬼”ではなくなった。
「全部、孝平のおかげ……孝平がいてくれたからよ……」
今、ここにはいない“彼”に向けて語りかける。
吸血鬼だった私が人間に戻れたのも、壊滅的だった千堂家の絆を取り戻してくれたのも、すべて孝平がいてくれたから。もし、孝平がこの学園に来て無かったら、私はこんなことしてなかっただろうし、1年後には館に連れ戻されていたと思う。
孝平に出会ってからの一年間は、それまでの十数年間より遙かに有意義で楽しい。
特に、お互いの気持ちを確かめ合ったあの日から、私たちの関係は変わった。
ただの生徒会副会長と役員と言う関係ではなく、恋人と言う関係に……
今や、私の生活の中心には必ず孝平がいる。
孝平のいない生活なんて、考えるだけでも悲しくなってくる。
もし、孝平が私に愛想を尽かして他の女の子の所へ行ったら……
「……ダメ……孝平だけは絶対に渡さない……」
そうならない為にも、明日は誰よりも早く孝平にチョコを渡さなきゃ。
そんな決意を固めつつ、私はいつもより早めにベットに入った。